饗宴の場である角屋には、江戸時代以来の「献立帖」が伝わっています。これは、宴を催した日に出された料理、座敷にかけられた掛幅や花などの装飾を記録したものです。たとえば、天保6年(1835)10月12日、「亭主 黒田様」のもと、「御客 山岸様」他三名が招待され、料理の献立のあとに「茶」とあり、「掛物 大橋 哥」「釜 宝珠」「炭斗 ふくべ」「茶碗 はんす」「茶入れ 利休」と、座敷飾りやお茶道具が順に記されています。
また、限られた期間の記録ではありますが、角屋七世徳右衛門(俳号徳野)が残した帳簿「茶道具之通」が伝わっています。これは、寛政4年〜9年(1792〜97)の6年にわたって、茶道具商高瀬清介から種々の茶道具を購入した記録です。買い求めた日、値段のほか、箱書や書付などが記されています。先述の天保6年の茶事で使われた「茶碗 はんす」はこの時に買い求められたものと考えられており、寛政5年4月7日に「金三両二歩」で購入したことがわかります。
このほかにも、角屋所蔵の食器類には、「長次郎七種茶碗写」(長入・了入作)や「阿弥陀堂釜」(桃山時代 伝与次郎作)などさまざまなお茶道具が含まれています。さらには、広庭に設けられた「清隠斎茶席」「曲木亭」「囲の茶席」などからみても、もてなしのひとつに「茶の湯」があったことがわかります。また、角屋の名松「臥龍松」は、昭和初年ごろ樹齢300年で枯れてしまったのですが、同28年(1953)、塗師11代中村宗哲氏によりその幹の一部は茶杓と棗となりました。このように、「茶の湯」の文化は、現代にいたるまで角屋において重要な部分を占めていたと考えられます。
本展では、こうした記録や角屋所蔵の茶道具を通じて、「うたげ」の場に供されたもてなしの趣向の、その一端をご覧いただくべく企画いたしました。この機会にぜひご来館いただきますようお願い申し上げます。
当館は、9月15日から12月15日まで「角屋伝来の茶道具展(秋の部)」を開催いたします。前期に引き続き、新型コロナウイルスおよびインフルエンザ等感染症の予防に努めながら公開を行います。多くの方に安心してご見学いただけるよう、ご理解とご協力いただけますようお願い申し上げます。